佐藤直紀 客員教授山下康介 客員教授
スペシャル対談

作曲「ミュージック・メディアコース(MMC)」の前身、作曲「映画・放送音楽コース」出身の両教授。学生時代の思い出から、第一線で活躍され続けているお仕事のことまで、様々なお話をしていただきました。

—東京音大を選んだ理由

佐藤
僕は、もともとは普通の作曲の学科に入ろうと思ってたんです。だから高校1年から東京音大にいらした作曲家の遠藤雅夫先生に付いて勉強していました。
山下
じゃあ、曲を作りたいという想いはかなり早い段階からお持ちだったんですね。
佐藤
中学生ぐらいかな。山下君は3つ下だから4期生ですよね。
山下
はい。佐藤さんは1期生ですものね。
東京音大を選んだ理由
佐藤
そうなんです。それでその遠藤先生から、「東京音大に今度こういう科ができるから入りなさい」と。君はそっちの方が向いている、と言われまして。入る?とか入ってみたら?ではなく、入りなさいと。
山下
なるほど(笑)。僕なんて東京音大のことを知ったのは「キーボード・マガジン」の広告でしたから。著名な作曲家の顔写真がずらっと並んでいて、もう、ここに行くしかない!と思っちゃたんですよね。
佐藤
それはありますね。僕も遠藤先生の勧めはあったけれど、東京音大は選んだ一番大きな理由は、現役の作曲家が大勢揃っていたからです。
山下
でも、僕は高3の夏の講習会で初めてここに来たんですが、その頃はまだ和声の「わ」の字もやってなかったんです。で、堀井(勝美)先生に和声はやっておきなさいって言われて。
そこから一気に勉強しました。

—4年間の印象的な出来事と進路

山下
3年生の時に初めて、自分が書いた譜面をオーケストラで演奏したんです。この経験が自分の中では結構大きくて。それからはスコアを書いて生演奏してもらうということに積極的に取り組めました。
佐藤
それは貴重な経験ですよね。僕はどれか1つというよりも、さっきも言いましたが一線で活躍されている先生方に直接指導いただけたこと、生の声を聞けたというのが最も刺激的でしたね。「ダセェよ」って言われても、アドバイスの一言一言が響くというかね。山下君は卒業後、どうしようと思っていました?
4年間の印象的な出来事と進路
山下
3年生くらいから小六(禮次郎)先生のお手伝いをさせていただいたり、4年生からは羽田(健太郎)先生に師事していたので、就職という選択肢は一切なかったですね。もちろん早く作曲の仕事はしたいと思ってましたが、まだまだ修行が必要でしたから。卒業後も先生のお手伝いをさせていただけるなら、しっかり頑張りたいという気持ちが強かったですね。
佐藤
僕も山下君と同じで就職という選択肢はなく、作曲家になるということしか考えてなかったな。ただ、山下君と大きく違うのは、僕は本当に出来が悪かったんですよ。若者特有の根拠のない自信だけはありましたけど。
山下
そんなことないでしょう(笑)。
佐藤
いえ、本当にひどかったんです。でも僕は運が良くて、卒業作品を三枝(成彰)先生が聴いてくださって。何年か先生のもとで勉強させていただけたんです。

—キャリア&ターニングポイント

佐藤
40歳を過ぎてようやくじゃないですかね?気持ち的にもスケジュール的にも余裕が出てきたのは。若い時は仕事を断るなんてできないですから。
山下
確かにそうですね。僕はいまだに断れませんが(笑)。でも卒業したての頃は2、3カ月何もやることがないなんてこともありましたね。先生方のお手伝いをしながら、1、2年くらいで徐々に仕事が増えてきた、という感じでした。
佐藤
僕はね、卒業して三枝先生のお手伝いをさせて頂いてからは、ありがたいことに仕事が途切れることはなかったんですよ。ただ地獄のような日々でしたけどね。2日に1回徹夜するような。
山下
(事務所のある)六本木に泊まり込みで?
佐藤
だから池袋から六本木に引越しましたよ。
山下
佐藤さんのターニングポイントは何ですか?「これでいける!」って思った仕事はありますか?
佐藤
非常に難しい質問ですね。山下君はどう?
山下
僕は単純にヒット作に恵まれたという意味で「花より男子」というTVドラマの音楽なんですよ。その前と後じゃ、全然違うので。
佐藤
なるほど。そういう意味では僕もドラマの1本目、「GOOD LUCK!」かな。ただ、その前まで仕事がなかったのかというと、CMの曲はたくさんやっていたので。
山下
年間120〜130本されてたそうですね。
キャリア&ターニングポイント
佐藤
ドラマをやってからは名前がクレジットされることが増えました。でもCMをやれなくなった時、一瞬収入は減りましたよね。ドラマや映画は作品が蓄積されると印税が入りますけど。
山下
僕はCM音楽をほとんどやってないんですよ。あれは難しい。15秒でその世界に引き込むって、本当に才能だと思うので。そういう経験がドラマ音楽にも活かされているんでしょう?
佐藤
そうですね。CM音楽の面白いところはクリエーターではなく、クライアント企業の広報の方とか社長さんとか一般の方を相手にしなくちゃいけないところなんですよね。彼らが最終的にジャッジするので。この曲は音楽的にレベルが高いんです、なんて言っても一切通用しませんから。
山下
商品を売るためにどういう音楽を書くか、ということが重要なんですものね。
佐藤
だからCMをやることで、商業音楽として一番大切な“求められているものを作る”という勘というかテクニックが磨かれましたよね。今やっているドラマや映画などに繋がる、必要不可欠な経験でした。

—学生時代の理想と現実

佐藤
学生の時は堀井先生の仕事の仕方に憧れていましたね。NHKなどクライアントに求められた曲を書く職業作家としての一面と、自分のアルバムを出すというアーティストの一面を両立されていて。結局、僕はそういう風にはなれていませんけど。
山下
ぜひ、アルバム出してくださいよ。
佐藤
いやいや、無理ですよ。できます?山下康介名義でアルバム出していいよ、って言われたら。
山下
考えることはあるんですけどね。出したら出したで、「聴きたいのはそれじゃない」って言われそうですよね。
佐藤
世に出している音楽が必ずしも、我々の音楽スタイルではないのでね。どうですか、じゃあ学生時代に描いていた将来像と現在のキャリアって。
山下
でも、それほどズレていないように思います。やっぱりオーケストラをやりたかったのでね。今、毎日のようにオケの曲を書けていますから。欲を言えばアレンジだけじゃなく、自分の曲をやりたいっていうのは・・・いやいや、充分ですね。
佐藤
やっぱり、アルバム出そう!
山下
いやいやいや(笑)、手軽にYoutubeで1曲だけ発表するとかでいいかも。自分のサウンドを作るだけならオケじゃなくても良いので。
学生時代の理想と現実

—若い世代に期待すること

山下
時代とともに取り巻く環境も変わってきますからね。よりパーソナルになっていきますし。でもやっぱり音楽は1人じゃなくて、いろんな人と作った方が良いと思います。パソコンの前だけで作るのとは喜びが全然違いますよね。そういう音楽の普遍的なところ、本質的なところをより大切にして欲しいと願っていますね。
佐藤
今の子達は皆、技術的には素晴らしいんですよ。ただ、発想力や企画力はある意味で乏しいように感じます。もっと磨けるはずですよ、なんといっても若いんだから。
山下
音楽ってこういうものでしょとか、こういう曲を書けばいいんでしょと、わかった気になって置きにいくともったいないですよね。
佐藤
やっぱり発想力ですよね。異業種、異文化の人と交流したり、映画を見たり、ファッションに興味を持ったり。旅行に行って見たことない景色を見てくるとか。とにかく音楽以外にもアンテナを張って欲しいんです。そうすれば、きっと新しい音楽が生み出せますから。だって流行っていつの時代も若い人たちが創るもんでしょう。ぜひそういう意識で音楽と向き合ってもらいたいですね。テクニックなんて後から勉強すればいくらでも身に付きますから。

ここが知りたい!
大先生への「10の質問」

Q1:作曲する時はどんな格好?
佐藤
Tシャツ短パン。
山下
ユニクロの部屋着。
Q2:作曲(仕事)に欠かせないアイテムは?
佐藤
手書きなので、鉛筆(2B)と消しゴム。
山下
愛用のアーロンチェア。
Q3:お気に入りのプラグインやソフトウェア音源は?
佐藤
最近だと「8DIO」。
山下
LX480っていう、よくスタジオの卓の上に置いてあるエフェクター。
Q4:作曲家じゃなかったら何になりたかった?
佐藤
プロレスラーか格闘家。
山下
バスの運転手。
Q5:今となっては笑っちゃう失敗談は?
佐藤山下
笑えないのしかない。
Q6:毎朝のルーティンは?
佐藤
不規則な毎日なのでなし。
山下
洗顔、歯磨き、カフェオレ、すぐ仕事。
Q7:休日の過ごし方は?
佐藤
ひたすら寝て、起きたら近所に飲みに行く。
山下
僕もそれ。
Q8:最近お気に入りのお店(飲食店)は?
佐藤
相変わらず近所の飲み屋。
山下
今更ながら二郎系。
Q9:よく行くお気に入りスポットは?
佐藤
特になし。
山下
少し前まではバッティングセンター。
Q10:今までした最高の贅沢は?
佐藤
一旦締め切りを忘れて飲む、そして寝る。
山下
世間の皆さんが働いている時間に飲む。
ここが知りたい!大先生への「10の質問」

プロフィール

佐藤 直紀(作曲家)Naoki Sato

佐藤 直紀(作曲家)Naoki Sato

東京音楽大学 作曲指揮専攻 作曲/映画・放送音楽コース卒業。
最新作は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」、CXドラマ「教場」、映画「るろうに剣心」、「マスカレード・ナイト」、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式楽曲「TOKYO2020 Victory Ceremony」。

山下 康介(作曲家)Kosuke Yamashita

山下 康介(作曲家)Kosuke Yamashita

東京音楽大学 作曲指揮専攻 作曲/映画・放送音楽コース卒業。
映画「海辺の映画館〜キネマの玉手箱」「花筐/HANAGATAMI」などの大林宣彦監督作品のほか、NHK連続テレビ小説「瞳」やドラマ「花より男子」、アニメ「ちはやふる」、特撮ドラマ「仮面ライダーセイバー」、歴史シミュレーションゲーム「信長の野望・天道」などの音楽がある。一般社団法人日本作編曲家協会(JCAA)理事。