佐藤直紀 客員教授✕山下康介 客員教授
佐藤・山下両教授と3人の4年生(2021年度現在)、黒川さん、江口さん、巻石さんによる座談会。 学生生活の過ごし方から将来の進路まで、ざっくばらんに語り合っていただきました。
—まずはお互いの印象をお聞きしたいと思います。学生の皆さんはこれまでテレビや雑誌でしか見たことのない先生方と実際に授業で対面したわけですよね。ぜひ率直な感想を教えてください。
- 黒川
- 率直な感想・・・あ、本当にいらっしゃるんだと思いました(笑)。
- 山下
- 実在していますよ!偽物かもしれないけど(笑)。
- 巻石
- 僕は子どもの頃、「仮面ライダー」とかをよく見ていたので山下先生に会えると思うとすごく緊張しました。でも初めての授業を受けた時、物腰も柔らかく温かな印象の先生だったのですごくホッとしたのを覚えています。佐藤先生はすごくエネルギッシュな方でハキハキお話しされるので、少しイメージと違いました。
- 山下
- わかる。僕もそうだったけど佐藤先輩ってなんか寡黙なイメージがあるんですよね。
- 巻石
- あと、とても格好いい先生だなと思いました。
- 佐藤
- ありがとうございます。
- 山下
- 服装なんかもビシッとしていて社会人らしいですよね。僕なんて適当だから・・・。
- 佐藤
- いやいや、一応こういう時だけはね。普段はベルトするのも嫌だし、ボタンのある服も嫌いなんでTシャツとかですよ。
—佐藤先生は2020年4月に着任されたわけですが、20歳前後の学生たちを直接指導されて、どのような感想をお持ちですか。
- 佐藤
- うちの息子も20歳なんですよ。だから学生たちと話すのに特に違和感とか難しさとかは感じなかったですね。ただ、意外とみなさんおとなしいなって。性格的な話じゃなくて、見た目的にね。服装や髪型がもっとぶっ飛んでいる子がいるのかなって思ったんですけど。
- 黒川
- 先生は学生の頃、いろんな髪型をされたんですか?
- 佐藤
- それこそ学生時代はモヒカンもしましたよ。就職しなかったから、卒業してからもピンクや紫の髪の毛でしたよ。
- 江口
- それはやっぱり自分の中でモチベーションを高めたりするために変えていたんですか?
- 佐藤
- 今になって思うと、何か殻を破りたかったのかもしれないね。持っている実力だけでは変えられないからまず外見から入る。銀髪にして変わった気になっていたのか、変わってやろうという意気込みだったのかわからないけど。ただ、本当に若い時にしかできないからね。50歳の僕が明日金髪にして来たら引くでしょ?
- 山下
- そうですか?僕は見てみたいな(笑)。
- 佐藤
- まあ、髪型だけじゃなくて、若い時にしかできないことや若い時にしか許されないことがあるからね。なんでもチャレンジするのは良いことだと思うよ。
—山下先生は作曲「ミュージック・メディアコース」が作曲「映画・放送音楽コース」だった頃から指導されていますが、学生たちにどのような印象をお持ちですか?
- 山下
- 僕もみんな真面目だなって。すごくちゃんとしているし、お勉強もきちんとやっているから、それはそれで良いんだけどね。「右に倣え」的な、みんなで平均点を狙いに行くというのは違うと思うので。やっぱり1人1人違っている方が面白いし、違わないと困るし、個性がもっと出てきても良いのかなって。
- 佐藤
- 無理やり出そうとすると、それはそれでおかしなことになりかねないけどね。
- 山下
- そうそう、無理に出す必要はありませんけど。
—もっと個性を、というお話が出ましたけれど、授業では言えない先生方の本音みたいなものってありますか?
- 佐藤
- どうですかね。でも僕は授業でも言いたいこと、言うべきことは言っていますね。教え方や伝え方は考えますけど、これは言わない方が良いかなとか、ちょっとサービスして褒めておこうかなっていうのは一切ないですよ。
- 山下
- 僕もそうですね。レッスンなんか別にお世辞を言う必要なんてないので、良けりゃ「いいね」って言うし、駄目なら「ダメでしょ」って言うだけです。言わなくても良いことは言わないっていうだけの話かな。
- 佐藤
- もちろん、音楽には正解がないから先生によって言うことも違うと思うんですけど。少なくとも僕らは思ったことをきちんと言葉にして伝えるようにしています。あとは学生たちがそれをどう受け止めるかだとは思いますね。
—逆に学生の皆さんからは授業では聞けないような質問はありませんか?
- 山下
- どんな車に乗っているんですか?とか(笑)。
- 佐藤
- 確かに昔、堀井先生のポルシェ見て、「スゲェ!」って憧れましたよね。
- 山下
- ええ。・・・あれ、みんな車に興味ないの?
- 巻石
- 車は今うるさく言われるじゃないですか、環境面で。特にガソリン車なんかは。
- 山下
- そこか!時代だねぇ!(笑)
- 佐藤
- 本当にどんな質問でも良いよ。
- 江口
- ・・・じゃあ、東京音大時代に彼女はいましたか?
- 山下
- 彼女はいましたよ。しかも、その彼女と結婚しましたよ。
- 全員
- おおっ!
- 山下
- まぁ、離婚しちゃったんですけどね・・・。
- 全員
- ええっ!
- 佐藤
- 随分赤裸々ですね(笑)。
- 山下
- 人生いろいろありますよ・・・(汗)。はい、次の質問どうぞ。
- 黒川
- では、大学の4年間はこう過ごせば良いというアドバイスはありますか?私はもうすぐ卒業なのですが、後輩たちもこの対談記事を見てくれていると思うので。
- 佐藤
- 社会人になってしまうと自分の時間がなかなか作れなくなるのでね。さっきの髪の毛の話もそうだけど、自由にいろいろできるのは最後だから。勉強も大事だけど、学生時代にしかできないことをやるっていうのは本当に大切なことだと思う。課題が多くて忙しいのはわかっているけどね。
- 山下
- うまく時間を見つけてね。曲ばっかり書くのじゃなくて。
- 佐藤
- 曲を書いたり音を作ったりする技術だけが今後の音楽に生かされるわけじゃないですから。いろんなことにアンテナを張って、いろんな経験をして欲しいですね。音楽だけじゃなく、いろんなものに興味を持って欲しい。
- 巻石
- 先生方の学生時代はどうでしたか?僕はこの2年くらいコロナ禍もあって1人になる時間が増えました。そうすると将来について、考え込んでしまったり、過剰に心配してしまったりするのですが、そういう経験はありましたか?
- 佐藤
- 僕なんて周りの人達よりも出来が悪かったけれど、大学を卒業したら作曲家になると勝手に決めてたんだよ。今振り返るとどうかと思うよね。だから巻石君が将来についていろいろ考えているというのは決して悪いことじゃないと思うんです。その中で今思い描いている未来とは別の未来とかビジョンが見えてきても良いんじゃないかな。ただ、考え込んであまり落ち込んだりしないようにね。
- 山下
- そうそう。あんまり深く考え込んでも人生いろいろ、どうにもならないことの方が多いので。その時々でやりたいことをやっていれば、できることも増えていくのでね。
- 佐藤
- うん、決めつけないほうが良いかもね。
- 山下
- 例えば作曲や音楽をやりたいっていう気持ちはちゃんと持っていた方が良いし、目標や志は高い方が良いのだけど、何かひとつができなくてもがっかりしなくて良いというか。自分の場合もそうだったけど、若い時は目の前のことをやるだけで必死なんですよ。でもそれを何となくでもやり続けたらこうなったというか。結果論だからね。
- 佐藤
- あと、お互いを理解し合うためにも人間関係は大切にした方が良いですよね。
- 山下
- そう、周りが今の自分を作ってくれたという部分はありますね。例えば、いつの間にか僕は特撮作品を受け持つことが多くなっちゃったし。別にこうなろうと思ってなったわけじゃない、わからないことだらけですよ。だから結論を言うと、多分悩んでも解決できないことの方が多いから悩まなくていいんだよ(笑)。
- 佐藤
- 随分、乱暴な意見だな!(笑)
- 山下
- 今だから言えるけど、若い時は自分も絶対いろんなことに悩んでいましたよ。でも、そういうものだからさ。
- 巻石
- ありがとうございます。
- 江口
- 人間関係というお話が先ほどあったのですが、作曲家の先生同士で交流はあるのですか?
- 佐藤
- 山下先生はどうです?
- 山下
- 基本的には、普段の仕事が1人きりなので、そういう交流も嫌いじゃないですね。でも、ミュージシャンとか音楽仲間は多いけれど作曲家同士は多くない気がする。
- 佐藤
- 最近は作曲家同士の交流の機会も多いようだから、自然とそういう人間関係はできると思うよ。
—最後に、この春巣立っていく4年生たちにエールをいただけますか?
- 佐藤
- 社会人になると行動とか発言に責任が出てきます。やっぱり仕事になると、作曲ひとつとっても、学生の時みたいにただ書いてみるとかちょっと試してみるって中々できなくなりますよね、だって失敗できないもの。だから、どんな仕事であってもその仕事ときちんと向き合ってください。もしかすると、20代、30代はつらいことの方が楽しいことより多いかもしれない、僕はそうでしたから。でも続けていれば良いことがきっと待っているので、どうかくじけずに一所懸命頑張って欲しいなって思います。
—山下先生はどうでしょう。
- 山下
- 私?好きにやっときゃ良いよ。
- 全員
- (笑)
- 佐藤
- いや、本当は僕もそう言いたかったんだけど、ちゃんと言わないと、と思ったのに!でも、本当に難しく考え過ぎないようにね。つらいこともあるだろうけれど、うまく受け流して。さっき山下先生が言ったようになるようにしかならないから、肩の力を抜いてさ・・・って、さっきと全然言っていることが違うんだけど(笑)。
- 山下
- あとはやっぱり、自分らしく。何事も自分らしくやってください。
プロフィール
佐藤 直紀(作曲家)Naoki Sato
東京音楽大学 作曲指揮専攻 作曲/映画・放送音楽コース卒業。
最新作は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」、CXドラマ「教場」、映画「るろうに剣心」、「マスカレード・ナイト」、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式楽曲「TOKYO2020 Victory Ceremony」。
山下 康介(作曲家)Kosuke Yamashita
東京音楽大学 作曲指揮専攻 作曲/映画・放送音楽コース卒業。
映画「海辺の映画館〜キネマの玉手箱」「花筐/HANAGATAMI」などの大林宣彦監督作品のほか、NHK連続テレビ小説「瞳」やドラマ「花より男子」、アニメ「ちはやふる」、特撮ドラマ「仮面ライダーセイバー」、歴史シミュレーションゲーム「信長の野望・天道」などの音楽がある。一般社団法人日本作編曲家協会(JCAA)理事。