MMC「4リズムヘッドアレンジII」より
目白『銀鈴の塔』音楽制作レポート

JR目白駅前、目白古道南に老朽化した急階段がありました。目白駅のバリアフリー化に伴い、2020年3月、豊島区によってエレベーターを設置するため、「銀鈴の塔」が建設されました。その最上部には鐘のオブジェが施されました。

目白地域協議会様より、東京音楽大学が目白地域の一員として、 この「銀鈴の塔」から定刻に奏でられる音楽を作る機会をいただき、作曲指揮専攻/作曲/ミュージック・メディアコース(MMC)の教員陣が制作を担当しました。

  • YouTube動画サムネイル

この動画は、すでに本学ホームページの地域連携のページで紹介されています。こちらのサイトでは、この音楽の制作過程をご紹介いたします。この音楽制作をMMCの授業「4リズムヘッドアレンジII」の教材として、履修学生が実際の制作進行と同時に学びました。
卒業後、このような仕事の依頼があることを想定して、作曲家が作曲以外の制作(プロデュース)に係ることを学ぶ良い機会になりました。

このミュージックビデオは、地域との連携のコンテンツ制作を紹介するものになっています。
MMCでは、こうしたことも作曲家の仕事を学べる授業として、学生の皆さんに提供しています。

作曲家の仕事は、皆さんがご存知の映画、ドラマ、アニメ、歌もの、といったものばかりではなく、こうした依頼に基づくものが少なくありません。特に建設物に付随する音楽や博覧会のパビリオンの音楽制作は数年に及ぶものであり、いわゆる映像コンテンツの音楽制作とは進め方が異なります。
ここでは時系列でその過程をご紹介いたします。授業では毎週、進行状況の確認とその説明をおこないました。

  • 下から見た「銀鈴の塔」下から見た「銀鈴の塔」
  • 「銀鈴の塔」最上部、鐘のオブジェ「銀鈴の塔」最上部、鐘のオブジェ

【2019年2月27日/第1回目打合せ】
全体のコンセプト、施設の概要、スケジュール、本学の協力内容(=音楽の提供)について、目白地域協議会様より、たくさんの資料を用いて説明を伺いました。

【2019年3月20日/第2回目打合せ】
ご依頼を進めるにあたり、音楽の選定、制作方法、予算、著作権と音源の権利について説明をしました。
曲に関しては、①授業内で学生による新作、②目白にまつわる曲、③目白にまつわる人物を連想できる曲、という三つの提案をおこない、②、③のケースを想定し、既存曲についても調査を進め、更に検討することになりました。
音楽制作は地域貢献ということで、本学の人・施設等を利用し、新たな費用の負担が目白地域協議会様と豊島区に発生しないことを確認しました。
その際、音楽著作権、著作隣接権(特に原盤権)について説明をおこない、ご理解・ご納得をしていただけました。

  • 【2019年4月22日/第3回目打合せ】
    童謡「赤い鳥小鳥」に決定しました。
    児童文学者・鈴木三重吉は目白に住み暮らし、「赤い鳥運動」をこの地より発信していました。その運動を象徴する「赤い鳥小鳥」の作曲者・成田為三が本学並びに川村学園にて教鞭をとっていたことも縁深いことでしたが、なんと言っても、「赤い鳥小鳥」が万人の知る名曲であることが大きな理由となりました。

  • 打合せ時の完成予想図1~駅正面より打合せ時の完成予想図1~駅正面より
  • 打合せ時の完成予想図2~施設下より打合せ時の完成予想図2~施設下より
  • 【2019年5月3日/第4回目打合せ】
    「赤い鳥小鳥」の編曲方針を含め、様々なことが決まっていきました。
    建物最上部は「鐘が鳴っている。」という設定なので、音楽全体に「鐘」の要素を必須とする。
    冒頭15秒は鐘の音によるシンプルなものにする。
    以降、2分以内の長さで四季に合わせた4種の編曲をする。
    4種類の音楽の方向性の違いは明らかなものにする。

  • 打合せ時の完成予想図2~施設下より打合せ時の完成予想図2~施設下より

本学J館レコーディングルームにて録音する。編曲を石川洋光先生、土屋真仁先生に依頼する。
演奏と監修を難波弘之主任教授に依頼する。デモ音源を7月後半までに完成し、目白協議会様にご確認いただき、修正すべきことがあれば作り直しをする。デモ音源の確認は、目白小学校の校庭にておこなう。
音楽著作権はすでにPD曲(著作者の死後70年を経過した曲)であるため、著作権使用料の徴収対象ではないことを確認しました。著作隣接権(原盤権)に関しては本学がその権利を持つが、無償で使用を許諾することを契約書に記すことにしました。

  • 石川先生の担当されたスコア石川先生の担当されたスコア
  • 土屋先生の担当されたスコア土屋先生の担当されたスコア

【2019年8月20日/目白小学校にて打合せ】
7月末、石川・土屋両先生より提出されたデモ音源
・冒頭15秒の鐘が2種類
・春夏秋冬をイメージした4種類の編曲を施した音源
を目白小学校の校庭で再生し、目白協議会の皆さまにお聞きいただきました。視聴後、教室にて皆さんのご意見を伺い、更にご希望を伺うべく、レコーディングに向け、編曲の仕上げ作業に入ることになりました。

  • 難波弘之主任教授難波弘之主任教授
  • 石川洋光先生石川洋光先生
  • 土屋真仁先生土屋真仁先生

【2019年9月25日/池袋キャンパスJ館地下レコーディングルーム】
普段、学生の前では「教える」先生方なのですが、この日は作曲家とスタジオミュージシャンとして「仕事」をするプロの先生方を目の当たりにすることになりました。
石川先生が冒頭15秒の鐘、春と夏バージョンを担当し、土屋先生が冒頭15秒の鐘、秋と冬バージョンを担当されました。

すでに出来上がっている各パートのオーディオトラックをPro-toolsに貼り付ける作業から始まりました。
デモ音源では全パート打ち込みで完成していますが、難波先生の「手弾き」による演奏によって、更に音楽的に完成度が上がっていきます。各曲、メロディを中心に1~2パートの演奏がおこなわれました。シンセサイザープログラミングは林先生が担当しました。シンセサイザーのダビングのレコーディングでは、難波・林のコンビは最強です。アナログシンセサイザーの音色をパッチを繋いで一から作り、難波先生が弾いて修正し、オケに合わせることを何度も繰り返しながら、音色が完成していきました。さながら、1年の「シンセサイザー」の授業の実践版のようでした。

このレコーディングのメインキングをMV(ミュージックビデオ)として残すために、映像収録が同時におこなわれました。MMCの授業では、こうした外部との連携を教材にしつつ、HPにて発信しています。 2020年3月に完成した「銀鈴の塔」の映像を入れるため、2020年4月にMVの初号が完成しました。ポストプロダクション(編集、音楽・テロップ入れ、資料画像の選定、許可申請等)作業を学外映像ディレクターに依頼し、完成した第3稿を関係者に確認していただきました。その際の修正を加え、第6稿が完成稿となり公開しています。 資料映像については、被写物の権利、撮影者・所有者の権利等を本学社会連携部によって使用申請をおこない、許可された上で使用しています。

【後記】
MMCでは、作曲を学ぶことが最も重要なことです。ですが、実際に仕事をする際に「できなくても知っておくべきこと」がたくさんあります。あるいは、「知っていれば仕事の可能性を広げること」も多々あります。今後の作曲家の作業内容がどこまで広がるかは分かりません。できないよりは、できた方が有利であることには間違いありません。MMCでは作曲を学ぶことと同時に、こうしたことも実践的に学ぶ機会を増やしています。現在、広く活躍中の先生方ばかりのMMCでプロの仕事を垣間見れることが、学ぼうとする人たちの刺激となり、スキルに繋がることに疑う余地はありません。

以下、公式に発表された内容をまとめてみました。

音楽の内容は、地元にゆかりのある 童謡「赤い鳥小鳥」のメロディを春・夏・秋・冬の 四季をイメージし、様々に編曲したもの。

現在も「銀鈴の塔」エレベーターでは、1日5回定刻にこの音楽を流しています。

■ 流れる音楽 「赤い鳥小鳥」
作詞:北原白秋 作曲:成田為三
編曲:石川洋光、土屋真仁(MMC専任講師)
演奏・監修 難波弘之(MMC主任教授)
シンセサイザー・プログラミング:林秀幸(MMC非常勤講師)
音楽制作:東京音楽大学

■ 音楽の流れる時刻
1日5回(7時30分・8時・12時・15時・18時※)
※3月21日から9月22日までは、18時30分

■ 音楽の流れる期間 ※7時30分・8時は、年間を通じて鐘の音の曲のみが流れます。
春のメロディ(3月21日から6月21日まで)
夏のメロディ(6月22日から9月22日まで)
秋のメロディ(9月23日から12月21日まで)
冬のメロディ(12月22日から3月20日まで)

■ 「赤い鳥小鳥」について
目白に縁の深い小説家・児童文学者の鈴木三重吉氏(1882~1936)は半生をかけ、児童文学誌「赤い鳥」を18年に亘り刊行。同誌上に掲載された、作詞:北原白秋氏(1885~1942)、作曲:成田為三氏(1893~1945)による「赤い鳥小鳥」は、三重吉氏の「赤い鳥運動」を象徴する曲となりました。成田為三氏は東京音楽大学の前身「東京音楽学校」の講師を務め、川村学園でも教鞭をとり、学園歌も作りました。

──演奏・監修の難波弘之主任教授より一言

今回の企画は、大学の地元に近い豊島区目白の皆さんからの依頼を受け、地域の皆さんとの交流といった地域貢献と共に、教員による編曲や演奏、そして、企画段階から音楽や映像制作に至るまで、全て東京音楽大学の作曲指揮専攻 旧・映画放送コース(現在は、MMC コースに改編・改称しました)の授業として行われた、というところがとてもユニークで、学生にとっても、地域の皆さんにとっても大きな意義がある、と思います。

学生たちは、実際に音楽制作の依頼を受けてから、どのようにして物事が進んでいくのかを、実践的に学べたと思います。

本学のMMC コースに受験を希望する皆さんに、この制作過程やMV(ミュージック・ビデオ)風に作られた映像などにより、入学後の明確なビジョンを持って頂けたら幸いです。

──編曲を担当した石川洋光先生より一言

この度は、目白駅に常設されました「銀鈴の塔」の音楽制作に携わらせていただき大変光栄に感じております。不朽の名作『赤い鳥小鳥』の季節ごとの編曲を、地域の皆様と目白駅をご利用される方々に楽しんでいただけますことを願っております。

──編曲を担当した土屋真仁先生より一言

この度ご縁があり、目白駅前の「銀鈴の塔」の音源制作に関わらせていただき、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。目白に深い関わりのある「赤い鳥小鳥」という名曲を編曲するにあたっては、音源が季節ごとに変化するという難しい課題でしたが、試行錯誤を経て親しみやすく仕上がったと自負しております。目白駅前でお待ち合わせの際には、ぜひ楽しんでいただけますと幸いです。